海うそ
梨木香歩さんの海うそをよみました。
静かな文体で学者の目を通して海の近い土地の厳粛な山の景色を眺め、感じ入るいい小説だった。
鬱蒼とした森に生きている植物や虫、差し込む光や川の音を文章で味わう至極。
痛ましいけど読後感は爽やかでした。
島に起きたこと、失ったもの、島の美しさ、それらを秋野さんが知っていることで、島の開拓で全て無くなってしまったわけではないことがわかるからでしょうか。
50年という月日の持つ絶対的な力を目に見えて見せつけられる残酷さもまた、かつての姿を思い起こすための必要な描写かと思います。
惜しいところは知識、専門分野の説明が先に立って物語性が薄く感じるところでしょうか。
雪の中のカモシカ、雪の中で死んだ許嫁を重ねて悼み、その心情を慮ろうとする描写は切なくも美しい。
賛否と好みは分かれるかと思いますがオススメの本です。
あとわたしは昔読んだ絵本、おこりんぼのやまを思い出しました。